職場で英語研修なるものを受けたのだが、非常にそれをやる意義について疑問を感じさせられるものであった。多分今時の英語研修というのはみんなこんなものなのかもしれないが、ほぼネイティブの講師の人がいて、いきなり英語で講義が始まるのである。ハローナイストゥーミーチュー! とかいって。
ちなみに今回生徒は3人である。講師1.5人に生徒3人。講師の0.5人分は研修をする会社のスタッフの人だ。2時間たっぷり英語で進められる研修である。ちなみに、オレは講師の人がジョークを交えながら進行していく内容、説明が、半分以上何いっているのかわからない。この時点でかなりの時間の無駄である。
この研修、週2回とか毎週とかやるならまだ「よし、今は彼の英語を理解できないけど、次はついていけるようにがんばるぞ!」などと向上心も持てるのかもしれないが、今回限りである。1度限りの大事な研修をわけのわからん時間として終わらすのは講師の人にも申し訳ないし、こっちも時間と気力の無駄だし、会社も経費の無駄だし、みんなにとって良いことではないはずだ。
例えば業務上よく使いそうなフレーズとか、こういう時はこのように対処したらうまくいきますよとか、そういうのを日本語を交えて説明してくれたらそれが一番効率のいい研修になると思うのだが、ところがそうではないのだ。まず、オレが一番恐れていたことなのだが、悪い予想が的中し講義の最初は全員の自己紹介から始まった。
ネイティブの講師を交えた英語の講義といえば、全部英語が当たり前だしやはりこうして自己紹介的なものから始まるべきであろう。英会話教室に通っても絶対ここから始まるはず。
しかし、それはこれから何十回も授業を受ける予定があるからこそ通過するべき段階なのではないだろうか?? 取り急ぎ1回だけの研修で業務での英語対応のコツを身につけたい人間が、今さら自己紹介をして恥ずかしい以外の何の収穫があろうか?? 恥ずかしいのは収穫ではないけど。マイネームイズとかマイホビーイズとか、アイハブビーンワーキングヒアーフォアなになにとかそんなもん言いたくないんじゃボケっ!! 同僚の趣味について聞きたかったら個人的に日本語でもっと深く教えてもらうわっ!!! とオレは叫びたかった。
ところが、なんとか多大なる生命力を使いながら自己紹介を終えたと思ったら、次は「各自、自分の好きなものを3つ挙げて、それについて語る」というまたもアメリカンな、ビバリーヒルズ高校白書な、外国人の友人にパーティに招かれた的な、そんな身震いするような恐ろしい課題が与えられた。
だいたい自己紹介などで使う単語は業務で使う用語とはほとんどかぶらないし、外人と話すのに慣れることが目的だとしても、別に今ここで慣れないでも業務を行っていれば一瞬で慣れるじゃないか。なんでここでわざわざ自己紹介から始めないといけないんだ。
とはいえ、旅先だったら「ごめん、眠くなっちゃった」とか「ああっ、おなかが痛いっ!!」とかいろいろな作戦を使って脱出することができるが(よくやったぜ……)、仕事であるし他のメンバーもいる手前ここは流れに飲まれてパーティ的空気の中に留まらねばならん。
そんな中、「自分の好きなもの3つ」という課題をみなで順番にこなし、やれマリンスポーツだ、美味しいレストランだ、美術館めぐりだ、とこれはもう完全にもし今が仕事中じゃなく居酒屋だったら、欧米かっ!!! と叫んでおもいっきり彼ら彼女らの頭をひっぱたいていたのではないかと思うような、なんで日本に帰ってきてまでこんな背筋が寒くなるネイティブとの恥ずかしいコミュニケーションにトライせねばならんのだと、寂しく悔しいひとときであったのだが、ならばいざオレは何をそのスリーワードにするかというところで、いよいよオレの番が来たため少なくとも自分だけは欧米に迎合するのはよそうと、慎重に言葉を選ぶことにした。
あまり詳しく書くとあれだが、ただこれを読んだとしても「ああ、あの時のことだな!」とわかってしまうのは世界で4人しかいないので多分大丈夫だろうということで書く。オレが発表した好きなもの3つは、みなさんご存知の通り、「インターネット」、「ビューティフルガールズ」、おまけで「スリープ」と発表した。
ディベートの場ではなく、自己紹介なのだから嘘をついてイメージアップを狙ってもしょうがないし、そもそも作り話ができるほどペラペラ喋れたら英語の研修なんて受ける必要がない。なので、あくまでも大人の社会人として素直に「家にいる時はほとんどの時間をインターネットをやって過ごしています。休日もどこへも行かず、寝て起きてインターネットをやって寝て起きてまたインターネットをやる、そんな生活です。あ、あと、ビューティフルガールズも好きです。ビューティフルガールズと結婚したいです」とつたない英語力でつっかえつっかえ語ってみた。
さすがに、話し始めは既に緊張感で固まっていた空気がさらにセメントで完全に塞がれるような、およそここ数年間で経験したことのないような硬直状態に場が包まれた。そりゃあそうだろう。オレも自己紹介で隣のやつが上のような話をし出したら、そいつとは違う部署に配属を希望するだろう。
とはいえ、ここでなんとか自力で方向転換を計ろうと思ったりしてはいけない。「本当は休日は温泉に行ったりサーフィンをやっていることにしよう」などと考えてよく知らない話に切り替えても、具体的な話は何一つ出来ず、その結果詳しくつっこまれて自爆して終わりである。
こういう場合はもう最後まで正直でいればいいのだ。オレは「ビューティフルガールズが好きなんですけど、ビューティフルガールズの方が僕を好きじゃないのは、このように部屋でインターネットばっかりやっているからかもしれません」と素直に悩みを告白したところ、結構ウケた。ほらみろ。やはり人間自分をさらけ出せば一定の理解は得られるものなのだ(号泣)。
ちなみに、こういう時でも講師の方というのは実に優しく、一生懸命生徒と接しようとしてくださり、「ではあなたは、インターネットの中ではどういうことを行っているのですか? 例えばブログを読むとか、ニュースを見るとか……」とそこから会話を広げようとしてくださった。オレは「はい、ブログとか掲示板とか、人のホームページを読んだりしています」と答えながら、内心「頼むからこれ以上話を広げないでくれ。早く次の話に行ってくれ」と叫んでいたというのはまあ自分の心の中だけにしまっておこうと思う。まあなんだかんだいって仕事とはいえ講師の方もスタッフの方もとてもいい人で、一生懸命やってくださっていたし。こうしてブログでチャチャを入れるなんてことができようはずがありません。
ただ、結果的に3時間くらいあったこの研修、もう自己紹介が終わったらオレは集中力を使い果たし、後半は講師の言っていることが全くわからず、海外で培った技である「相手の目を見て、理解しているフリをして何度も頷きながら話を聞く」という奥の手を出し、それだけで残業代を稼いだ。
しかし、一般的に英語の授業といえば、日本の学校のような形態はダメ、ネイティブと英語だけで行う会話形式の授業がいいんだ! と決め付けてしまうのも、それはそれで頭の固い正しくない発想なのではないかと思う。よく効果をイメージして、時と場合と相手により最も効率がいいと思われる方法を臨機応変にとるというのが、一番良い英語の授業なのではないだろうか。
ということでツッパリ先生の授業です。アメリカでも有名