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道端の二胡

 雲南省の古い町、「大理」の道端で二胡を演奏していた少女。

 中国に入って10日目くらいだったと思う。1ヶ月、2ヶ月くらいはかかるだろうと思っていた中国の旅だが、まさかこの後4ヶ月以上もカメラを盗まれたり体調を崩したりしながら(普通に考えたらこのオレが体調を崩さないことはあり得ないのだけど)放浪が続くとは、全く考えていなかった呑気な10日目だ。この時はまだベトナムで煩った肺炎が完治しておらず、毎日呼吸器のようなもので朝晩薬を吸引していたなあ……。
 この演奏を聴いていた時は、ほほうなるほど、中国なんだからやっぱり路上の演奏も二胡なんだなあ、なかなかうまいなあ、でも中国なんだからこのくらいのレベルの演奏者はたくさんいるんだろうなあ、……程度に思っていたような気がする。

 しかし、のちのち改めてこの動画を見てみると、改めて、全く恐ろしいほどに演奏のレベルが高い。Youtubeの動画として小さな画面で見ても驚愕するほど上手い。

 当時はそれを目の前で見ていたはずなのに、見ている時にあまりのレベルに驚愕した記憶は無い。それはなぜかと考えてみると、自分の心に余裕が無かったからだと思う。今こうして見ると、動画の中の演奏を聴くことに集中できる。しかし実際に1人で中国に入ってこれから中国をまた1人で旅しなければならなという時には、精神的に落ち着いていられなかったのだと思う。今自分が中国にいるという時点で不安なのだ。巨大な不安が、日常を襲っている。そんな精神状態ではこの二胡少女がどれだけすごい演奏をしていたのか、はっきりと理解できなかったのかもしれない。理解する心の余裕が無かった。

 思い出深いことがある。
 この路上では商業活動(?)が禁止されているらしく、この動画を撮った時からしばらく後に、巡回中の中国のお巡りさんが彼女に「ここで集金活動をしてはいかん。撤去しなさい」と注意をしたのだ。
 すると、はいわかりましたと彼女は募金箱とメッセージボード(音楽の学校に行っていますが学費が払えないので援助してくださいみたいなことが書いてある紙)をまとめ、すぐに退去しようとした。オレは、あらあらと思いながら見ていたものだ。
 しかし彼女は退去しようとしながら、退去しようとする姿勢でしばらく固まって動かなくなり、そのまま今にも退去せんばかりの姿勢で、お巡りさんが行ってしまうと、すかさずまた募金箱を広げてその場で演奏を始めたのである。

 その度胸にオレは驚いた。この子には、プロになる要素が揃っているではないか。お金は無いのかもしれないが、そのことによりこうして人前で演奏する機会も増えて度胸もつき、ハングリー精神も鍛えられて、こういう子こそがその世界に名を残す有名演奏家になるのではないか。お金が無いとしたら、お金が無い境遇なのにこのレベルまで技術を既に身につけているというのはなおさらすさまじいことだと思う。二胡界のイチローと言えるほどの逸材ではないだろうか。技術と精神的強さを兼ね備えた逸材。それがこの二胡少女。

 きっと今大理の町に行っても路上で彼女の演奏を見ることはできないだろう。今頃彼女は、ちゃんとした衣装を着てステージの上で、チケットを買ってくれたお客さんに向けてプロとして二胡の腕前を披露しているのではないか。この動画は貴重な映像になるのではないか。

 ちなみにYoutubeでコメントがついていて、中国の方のコメントによりこの曲のタイトルが「江南春色」だということがわかった。ほんとすごいねえ。江戸時代とかのことを考えたら。気軽に中国に行ってデジカメで動画を撮ってきてPCからネットにアップして、それを見た中国の人が動画にコメントをつけるという……。

 また次回中国の動画を上げます。

 

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