パナマ入国の日2
前回の続き
前回のブログ記事で行方不明者の顔写真にボカシをかけたのだが、見出しの地名のところをボカスのを忘れてしまった。個人の特定につながるような固有名詞はなるべく載せない方がいいのだが……
しかしもう見えてしまっているものは仕方ないので、どうせなら日本語で表記してしまうと「ボケテ」という町での事故である。「Boquete」、そこで日本人旅行者が行方不明になってしまったのだ。もしかしたら、地名がボケテだけに、山に入った彼にはどこからか「ボケてボケて!」という天の声が聞こえ、その意志に従って「『日帰りでトレッキングに行って来ます!』と余裕こいて宣言しておいていきなり行方不明になる」という命がけのボケを演じているのかもしれない。……少し不謹慎か。
とにかくこんなパナマの山の中、遙か遠い異国で命を失ってしまった若い日本人旅行者がいるということを旅人の仲間としてオレは忘れるわけにはいかない。自分と似ているその旅行者のことを。今この一瞬、彼の最も近くにいる日本人はきっとオレなのだろうから。
パナマ運河のミラフローレス門
パナマの首都・パナマシティにはパナマ運河くらいしか見所はないが、しかしメキシコから南下する旅行者が最後に到達する中米のゴール地点であり、中米の中で非常に重要度の高い都市だ。パナマと国境を接している南米のコロンビアには治安上の問題で陸路で抜けることができないため、旅行者はパナマシティに数日間滞在し、旅行代理店や航空会社を回ってコロンビアもしくは他大陸の都市への航空券を購入する。
オレもパナマ入国の2日後、ダビからパナマシティに移動した翌日からコロンビア行きの航空券探しに奔走し、フライトまでの数日間はパナマ運河やパナマ運河鉄道を観光し宿の子犬と遊ぶという忙しい日々であった。
さて、その入国の2日後、パナマシティ到着の翌朝であるが、オレが起床して宿のロビーに下りて行くと久しぶりに東洋人のバックパッカーの姿を見かけた。どうやら夜行バスで今朝到着したらしい。他の宿泊者は白人ばかりなので東洋の顔を見るととても心強い。しかも、こういうメジャーではない旅行先で東洋人がいるとなると、8割くらいの確率でそれは日本人だ。残りの2割は韓国人。中国人はいないわけではないけど、中国人を見て「あれ、この人はどこの人なんだろうな」と悩むことは無い。中国人だったら一瞬にして「あ、中国人だ」とわかるのだ。
オレは日本人もしくは韓国人だと思われる東洋の旅行者の姿を見かけたら、必ず「こんにちは~」と呼びかけるようにしている。そこでこんにちはが返ってくれば日本人だし、全く反応がなければ韓国人ということだ。反応が無くはないがうなずくだけとか声の出ない反応が返って来た場合は、そいつは挨拶の意味も知らない海外に出してはいけない恥さらしな日本人である。
そしてこの朝ロビーにいた到着したばかりの旅行者からは、「こんにちは~」とちゃんと日本語で挨拶が来た。そうなったら、日本語を喋れる機会はとても貴重なので、すぐに話し込んで情報交換だ。
通常夜行バスでパナマシティに着く場合は99%コスタリカのサンホセからの国際バスに乗っていたということになるのだが、話を聞いてみると彼はオレと同じダビから夜行に乗ったということである。朝乗れば午後着くバスがあるのに、宿代の節約のためにあえて夜行バスを自らの意志で選ぶというのはドMの変人旅行者である。そんな奴と関わり合いになりたくない。オレに「夜行好き」という性癖をうつされたらたまったものじゃない。それは身を滅ぼす病だ。
しかし普通はバックパッカーが訪れるパナマの都市はパナマシティだけだ。他の地方はただの背景というか、ブルーバックみたいなものなんだから。オレは、「ダビなんかでなにやってたんですか??」と彼に尋ねた。すると彼はこう言う。
「いや~、僕、ボケテっていうところで山に入ったら遭難しちゃったんですよ。それで帰ってからダビ経由でパナマシティに……」
あんたかよっっ!!!!!!!!
あなたが最近噂の!!! あの彼ですかっ!!!
「マジですかっ!!! もしかして、お名前はKさんですか?」
「えっ、なんで知ってるんですか!!」
「新聞見ましたよ(泣)!!! よく生きてましたね!! よかった! 本当によかった(涙)!!!」
オレは生還を祝って思わずKくんと握手を交わし、そしてその夜、夕食を食べながらその一部始終について詳しく聞いたのである。
続く