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帰国して

 つい先日チリから津波と共に日本に到達したオレであるが、4ヶ月の滞在といえばワーホリや留学や駐在なんかで長期で海外にいる人からしてみれば、なんでもない期間だと思う。「ほんの4ヶ月」なんて言われてしまうかもしれない。
 ただ、これが1箇所への滞在ではなく移動を繰り返す旅でなおかつ低予算で非先進国、おまけに当事者は何年も日本からどころか部屋からすら出ることの無かった引きこもりとなると、たった4ヶ月でも……
 長く、感じたりする。
 4年ぶりくらいに感じたり。
 日本を出てから、乗り換えでロスに着いたその時からずっと「早く日本に帰りたい~(涙)」と嘆き続けていた。もちろん、4ヶ月のうち5,6日は楽しい日もあった。それは環境のいい日本人宿に泊まっていた時と、日本人宿ではないけれどそれなりにいい宿に滞在していてwifi環境があり、自分のPCでネットが常時使えて食事もウニばかりで、宿のカミーラちゃんがとても優しくしてくれた時だ。でもカミーラちゃんとのことをここで書くとなあ……

 4ヶ月のうち3ヶ月と3週間以上の期間では、日本に帰りたいと思わない日は無かった。だから帰国便の機内で日本語のアナウンスを聞いた時、スッチーさんに日本語で話しかけられた時はもうそれだけで感無量であった。日本語! 意識を集中しなくても頭が勝手に理解してくれるオレの母国語!!
 成田で飛行機から降り、天井近くにある「おかえりなさい」という看板を見た時は本当に嬉しかった。日本という国から実際に「おかえりなさい」と迎えられているような気がして。日本がオレに「おかえりなさい」と語りかけてくれているような気分になって。オレは帰って来たんだーーー!!!!! と叫びたくなる気持ちだった。

 更に感動したのは、機内に持ち込まなかった、チェックインした荷物が流れて来るベルトコンベアーでの人々の様子だ。
 同じ便で成田に着いた方々は当然日本人が多かったのだが、その人たちは自分の荷物が出て来るのを待っている間、なぜかみんなコンベアーに近づかず、距離を保って待機しているのである。それはなぜかと辺りを見てみれば、コンベアー近くの床にはぐるっと一周青い線が引かれており、「このラインより先にはカートを入れないでください」という注意書きがされているのだ。
 こんなもの他大陸諸国ではでかいカートをコンベアーに横付け当たり前、たとえ自分の荷物がまだ出て来ておらずともみんな我先にとベルトの淵に殺到し、あぶれた人間は流れるバックパックを取りに行くために「ちょっとすいませんよ~。ごめんなすって~! 入れてちょんまげ~~っ!! ペルドーン(スペイン語「すいません」)! ペルドーーン!!!!」と叫びながら人ごみを掻き分けて突進しゼェゼェ言いながら荷物を確保しなければならないのだ。おまけにガキなんかはおもしろがってベルトコンベアーに乗ろうとし、邪魔なもんだからてめえこのクソガキそのまま転んで流されて機内に積まれてサンサルバドルにでも運ばれろよっ!!!! 降りた瞬間強盗に遭えっ!!! 尻に入れた金の延べ棒を盗まれろっ!! この歩く身代金野郎!! なんだそのほっぺたの赤丸と頭のツノはっ!!!! 気持ち悪いんだよっ!!! とそんな普段では絶対に思わないようなひどいことまで、僕に心の中で発言させてしまうほどの異常な光景が繰り広げられるのでございます他大陸諸国のアエロプエルト(エアポート)では。

 それを日本の空港は、ちゃんとラインを引いて「カートはここより先には進めないでくださいね」としっかり書いてあるのだ。そうすればみんなが荷物を取り易くなるということを考えての空港さんからの注意書きである。
 こういう気配りはさすがだと思う。そうやってカートを入れずにベルトコンベア周りのスペースを空けておけば、いらぬ混雑が減りみんなが荷物を手元に取り戻す時間が少しずつ短くなるのだ。
 そうやっていろんなことの能率を上げて、そういう時間の使い方と効率よい仕事を積み重ねて日本はここまでの経済大国になったわけだしだからこそ今でも世界中で日本製品は選ばれているのだ。
 オレは友達との待ち合わせにしても私生活の諸事にしてもゲームにしても仕事にしてもとにかく「能率が悪い」ということがほんっっっっっっとに大嫌いでたまらないのだ。だって1回しかない人生の中の時間って、たった1分でもめちゃくちゃ貴重じゃないか。例えば仕事の話になって、「定時になっても周りのみんなが仕事してるから、私だけ帰れるわけないじゃんー。だからなんとなく残業しちゃうんだよねー」なんて言ってる奴を見ると、オレは心底バカじゃねえかおまえはっっっ!!!と思う。別に仕事が残っている人の手伝いをしたり明日の仕事を前倒しでやるのなら、それは別にいい。だって人を助けるのは人としての義務だし、翌日の仕事をすれば翌日の時間は節約できるのだから。でも、特に何もしないで他の人たちが帰るまでだらだら時間を潰していたり、会社のPCで適当にネットでもやりながら待っているというのは人生の時間をドブに捨てているようなものだと思う。そんな無駄な時間を愚かに過ごしていないで、自分の仕事が終わったんならとっとと家に帰って、自分のPCでネットサーフィンすればいいだろうがっ!!!! だらだらとカラムーチョでも食べながら!!!!
 その安易にドブに捨てている5分や10分や1時間、積み重なって膨大な量になっているその期間に浅田真央ちゃんや安藤ミキティは恐ろしいほどのプレッシャーに耐えながら新しい技を習得し、日々自分を高めているのである。
 よく考えて欲しい。生まれてから今まで、そうやっていったい何千時間をゴミ箱に投げ捨てて来たか。もしその時間を効率的に計画的に使っていたら、イチローや中田にだってなれていたかもしれないんだぞ。もしその時間を効率的に使っていたら、今よりも100本は多くのゲームをクリア出来ていたかもしれないんだぞ。今よりも100本以上多くのエロ動画を編集出来ていたかもしれないんだぞ。
 ゲームをする時間やエロ動画の編集をする時間がそもそも無駄ではないかという意見は、現在受け付けておりません。

 それはそうと、その(コンベアー周りの)注意書きのおかげで、荷物がぐるぐる回って流れているベルトの周囲1mの範囲には人はいないのだ。きちんとスペースが空いている。でもオレだけは普通に1m以内のところにまで進入していて、「この注意書きはラインより先に『カートを入れないでください』だからな。別に人は進んでもいいんだよこれ。カートを持っていなければラインより先に進んでいいんだよ。だから近くまで行こ~っと。みんなも来てるでしょ近くまで? 自分の荷物を探しに。だってカートを持っていなければ別に注意書きを守る必要は無いんだから。入ってるよねみんなもラインの中に。コンベアから1m以内に。…………。ってオレだけかよっっ!!!!!!」と思わず左右を見渡して1人で叫んでしまうような、「カートを入れてはいけません」の注意書きなのになぜか自分自身もちゃんとラインの外で待っているという、そんな控え目で前に出ない日本人のみなさんの姿というのはなんと美しくオレの目に映ったことか!!!!
 だから日本は好きなんだ。

 そしてもうひとつ、コンベアーに流れて来る荷物は天井から出ているもうひとつ別のコンベアーから下り坂を滑って下りて来るのだが、その下りて来る荷物、トランクやバックパックが勢い余って淵にガーンと当たったりしないように、ここには「荷物をおさえて勢いを弱める係りの人」がいる。
 乗り換えのカナダのトロントでも同じようなシステムのコンベアーだったのだがあちらでは当然のごとくそんな繊細な仕事をする役割の人はおらず、上からツツーっと流れ落ちる荷物はことごとく下のコンベアーの淵、荷物受止め用の壁にガンガンぶち当たっていた。きっとその時ボストンバッグの中に入っていたエスパー伊東は5,6箇所は骨折してしまったに違いない。
 こういう気の使い方、サービスの行き届き方を見ると、ああなんて日本はいい国なんだ~~日本人でよかった~~帰って来れてよかった~~と感激せずにはいられない。しかし話変わって、別の面ではまた別の意味で驚かずにはいられない。
 別の意味で驚いたのは、電車に乗った時だ。新宿から最寄駅まで電車で帰ったのだが、その車両に乗っている人が……、1人も喋っていないのである。何十人もの乗客の人たちが、誰も喋っていないのである! なんじゃこりゃ~~~!なんでこんな静かなんだ~~~~っ!!! とこれは驚いた。だから日本では、携帯やウォークマンの音漏れが問題になるんだな……。
 とりあえず昨日まで4ヶ月間利用していた各地の公共交通機関では、人は人と喋っているのが当たり前で、クソガキいやお子様が騒いでいても誰かが携帯で大声で話していてもカップルが抱き合ってひたすらチュッチュッしていても、全く気にならなかった。くそがっ。まじ殴って丸めて線路に捨ててやりたかったぜイチャつくカップルどもがっっ。
 ただこれは好みの問題なので静かか騒がしいかどちらがいいかは人それぞれだと思うが、しかし今まで何年もずっと普通に乗っていたはずの日本の電車なのに、なんだか1人も喋っていない状況を見て少し恐くなった。もちろん海外の電車に乗ってもオレに関して言えばオレはいつも1人ぼっちで日本だろうと海外だろうと誰とも電車の中で話すことなど無いのだが、帰国して電車に乗ったら「うわっみんな誰とも喋ってない! みんなオレみたいになっちゃってるよ!! 寂しいよっ!!!」と余計な心配をしてしまったのである。1人なのは、オレだけでいいじゃないか。みんなは楽しく生きてくれよ。友達同士で仲良く喋ってさあ。そしてその暖かさをオレに分けてくれよ。近くでその熱さを。この寒い冬に。

 あとは、基本的には久しぶりの故郷に帰って感動することばかりなのだが、これも良いか悪いかは別として、見慣れていたはずのものが突然異常にバカバカしく感じるということもある。
 そこそこ有名な、とある旅行記の著者が本の中で同じことを書いていた。
 彼は長い旅を終えて帰国した直後にどこかで「新しい炊飯器の広告」を目にしたのだが、その炊飯器は「炊いた後にフタを開けても炊飯器のフチにつゆ(水)が溜まらない新機能」を搭載しており、その機能のことが大々的に売り文句として広告に書かれていたのだという。そしてそれを見て、日本には「炊飯器のフタを開けた時につゆが溜まらないという機能を毎日時間をかけて作ったり考えている人」がいて、そして「炊飯器のフタを開けた時につゆがつくかどうかということを気にしてどの炊飯器を買おうか選ぶ人」もまたいるということ、それが彼にはあまりにもバカバカしく感じ、「この国は終わってるな」と思ったというのだ。

 ここでオレには、どっちの気持ちも非常にわかる。たしかに、オレ自身ご飯を炊いてフタを開けた後にはいつもティッシュであの水滴を拭いており、「もしこの部分に水が溜まらないという機能がついている炊飯器があるのならぜひ欲しいなあ」、と実際に思う。そんな新機能のついた電子ジャー、それはそれは便利であろう。
 しかし、そういうことがなんか長期の旅から帰って来るとたまらなくしょーもなく感じるというのも、すごくわかるのだ。
 オレの場合は炊飯器ではなく、アフリカや中国の旅から帰った時もそうだったのだが、帰国直後に「日本のバラエティ番組」を見ると必ず病的にバカバカしい気分になる。
 具体的に今回の南米帰り後、成田から自宅に戻ってテレビをつけたところ、ちょうど夕方のニュースをやっていた。バラエティ番組ではないが、そのニュース内の特集コーナーで、その時たまたまおいしい居酒屋の紹介をしていたのだ。
 で、そのお店には魚の頭を焼いた「カマ焼き」というメニューがあって、そのカマ焼きがテーブルの上に乗せられたのを見てお笑いタレントとアナウンサーが、「うわ、ちょっと待ってくださいよ! これが本当に599円なんですか?」「ねえ、だって、この大きさですよ? これですよみなさん!? これで599円だなんて!」という会話をしていて、オレはそれを見た瞬間「バカじゃねえかこいつら……」とバカバカしくて絶望的な気分になった。
 しかしこれはおかしな話ではある。
 だってオレは子どもの頃から筋金入りのテレビっ子で、小学生の時点で将来の夢は「タレント」と文集に書いていたし、実際に大人になってからもお笑い芸人を目指していたのである。そんな大好きなテレビの中の憧れの職業であるタレントさんが発言していることについて、尋常じゃなくバカバカしく感じ、しかしきっとあと1ヶ月もすればオレは「うわーマグロのカマ焼き、食べに行きたい~~♪ これで599円だなんて素敵♪」と言いながらそのような番組も楽しく見るようになるに違いないのである。
 そもそも今までいた中南米にだってしょーもないテレビ番組はいっぱいあってお笑いタレントさんもたくさん活動しているだろうに、しかし、どうしてか長旅からの帰国直後はいつも日本のバラエティ番組を見てこういう気持ちになるのだ。ロンハーの「女たちの格付けなんとやら」も番組表でその文字を見ただけで「ああ終わってるなこの国は……」という気分になる。しかし出国前は爆笑しながら見ていた番組であるし、1ヶ月後にもまたバカ笑いしながら見ることだろう。だがまさに今だけ、絶望的にバカバカしく感じるのだ。今だけは。実に謎だ。

 ともあれ、帰国してからの時の経過が早いこと早いこと。だって、昨日何をやっていたか説明するのに1分もかからないんだから。早く感じるよなそりゃあ……。

 などと大胆なことを言いながら、さて、最後にお願いがあります。
 いきなり話が変わるのですが。
 3月の1日から31日まで、啓文堂書店さんで「雑学文庫ダービー」というフェアが開催されており、「インドなんて二度と行くかボケ! 以下略」がラインナップに入っているそうなのです。
 啓文堂さん全店で、フェアのコーナーにインド含めたラインナップ文庫本が並べられ、その10数冊の中で1ヶ月の売り上げを競い、トップに輝くとなんと!! 何かいいことがあるらしいのです。
 なにしろつい今しがた日本に帰って来たばかりなのでそのへんの情報は詳しく把握していないのですが、どうやらトップに輝いた暁には優勝本としてより力を入れて売ってくださるそうなのです。
 本屋さんが力を入れて売ってくださる。これはマイナー著者にとっては恐ろしいほどありがたいことであり、たまらない幸せなんです。それがまた次の仕事に繋がるかもしれない。願い叶うのなら、ぜひトップになってみたい……。

 ラインナップの中には、文庫になる前からバカ売れした有名な本も入っているらしいのですが、でも、もうそんなに売れた本はいいじゃないですか。もういいじゃないですかあなたたちは。今回のフェアくらい、名も無いインド旅行記に取らせてくれてもいいじゃないですか。
 おりしもこれから卒業、入学シーズンです。「インドなんて二度と行くかボケ!」は、自分で読むのはもちろん、ご家族、ご親戚の方々の卒業、入学、就職祝いなどにもぴったりです。受験の悩み、就職の悩みなどで落ち込んでいる方にもぜひプレゼントしてあげてください。きっとこの本を読めば、何もかもバカバカしくなってちょっとだけ元気になるかもしれません。この本に登場する変態どものあまりのバカバカしさに悩むことすらバカバカしく感じて。
 啓文堂書店さんは首都圏に展開している書店さまです。このように 
http://www.keibundo.co.jp/shop/
 もし店舗のお近くにお住まいの方、お近くを通られる方がいらっしゃいましたら、店内フェアコーナーにて様子を見ていただけるとありがたき幸せに存じます。
 もし将来みなさまと旅先でお会いして、その時に「啓文堂の雑学フェアの時に本買ったんですよ……」などとささやかれたら、僕はハハーッ!とひれ伏しながらすぐさま近くの安食堂でチキンなどをご馳走させていただくでしょう。そんな方と旅先でお会いしたら、もうチキンをご馳走せずにはいられません。チキン以外でも安食堂であればなんでもご馳走してしまいます。どうして旅先限定かというと、日本でご馳走させていただくとどう考えても本の料金より高いからです。
 フェア情報はこちら 
http://www.keibundo.co.jp/nagayama/2010/03/post_14.php

 どうぞ何卒よろしくお願いいたします! 3月いっぱいです!

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