※前回までのあらすじ
「ボク、人間になりたいワン!」
ある日さくら剛のアゴに頭突きを繰り返し、気を失わせながらイースター島に住むペロは夜空のお星さまに祈った。そんな他愛もないひとことにより、今日も日本人宿「Hare Kapone」では、食費の節約のために自炊をする旅行者が多いのであった。
さくら剛特製、「ナスとウィンナーのこんがり醤油マヨネーズあえ」である。
なぜ、いつからこんなにオレはナスが好きになってしまったんだろう。もうナスナスナス、寝ても冷めてもナスばかり。まるでナスのナスがまま、ナスには決して逆らえないというナスけない姿になってしまったオレである。そしてどこでも手に入るマヨネーズはともかく醤油をなぜ持っているかというと、それは前々回のブログをご参照あれ。液体は飛行機の機内持ち込みできないので、バックパックに醤油のビンを入れて荷物を預けてイースター島まで運んだのである。一歩間違えればフタが取れるかビンが割れてバックパックの中、全ての生活用具一式が醤油の海に浸かり和風の味付けになってしまうというそこまでの覚悟をして。そういえば、ここで買ったナスはちょっとあおかったなあ。これがほんとのナースあおい。
ともあれ、この「ナスと輪切りウィンナーのマヨしょうゆさくら剛バージョン適当スペシャル」はどう考えても南米で食べる日々の料理より美味い。こんなおいしい料理を作れる人が旦那さんだったらきっと楽しい結婚生活が送れるんだろうなあ。
しかし、なかなか海外には日本のようにツマミを動かすだけで自動的に着火するコンロは無いため、ここのガスコンロもツマミを捻ってガスをシューーと出してから自分でライターで火を着けなければならない。
でもそのライターを近づけて火を着けるという動作がもう恐いのなんの。ライターの火なんて所詮ほんの3cmくらいの長さなわけで、だからもうコンロの根元スレスレまで手を接近させなければならずそして一定の距離に達した瞬間いきなりボゥワオッッ!!!と小さな爆発のように火が着くものだから、もう何回使ってもオレはこのコンロに火を着けるたびに「ひやあっっ(号泣)!!!」と黄色い悲鳴を上げることになったのである。
どうか着火マンを買ってください。
調子に乗って今回新しく作ったのは「ウィンナーとナスの醤油マヨネーズ炒め乗せスパゲティさくら剛スーパーミラクル」である。
いやあ~。
もうナスウィンナーの醤油マヨネーズ風味とスパゲティが、あわないのなんの。
これは失敗だった。
しかし懲りずに他の旅行者が炊いていた米をもらって、翌日は「マヨしょうゆナスウィンナーさくら剛ハッピーエンドバージョン車酔い大嫌いどんぶり」である。
うん。
これはいける。やっぱり和風のおかずには米ですね。
ところが、この宿は短期滞在者ばかりで宿泊者の雰囲気もいいとはいえ、オレを含めて6人宿泊していてオレ以外の宿泊者の平均年齢が21歳くらいだった(4人は現役大学生)時にはもうどうしたらいいかわからなくなったのだよ。戸惑ったのだよ。
オレの場合20代前半の若者にも最初はまずかなりの確率で同じくらいの歳だと思われて、始めは馴れ馴れしくタメ口で喋られる。時によりオレもタメ口だったりオレの方は敬語だったり(10歳以上年下の相手なのに)するのだが、初対面の旅人同士でしばらく話していると必ず年齢の話になるものであり、そこで仕方なく実年齢を明かすと「えっ! そんな上なんですかっ!」と驚かれサーーッと気持ちが引かれるというそのパターン、毎回繰り広げられる毎回味あわされる心の距離が離れて行く瞬間、それがすごくイヤなのだ……。同じ人間じゃない。いいじゃない30でも(涙)。急にそんなに遠くに行かないで(涙)。
とはいえ結局何日も同じ屋根の下で暮らしているとたいして年齢など関係なく喋るようになってくるのだが、それでもオレの過去の旅で自分より10歳以上下の旅人など見たことが無いため、彼らがどういう世代なのかいくつか質問したくもなるものだ。
モアイも見尽くして共有スペースでグダーとしているある日の午後に、オレはルームメイトの大学生マサくんに「キミは何年生まれなの?」と聞いてみた。
すると、なんとあらびっくり、「平成元年生まれです」という答えが返って来たではありませんか。
おいバカっ!!!!!!
平成生まれって!!!!!!!!!!!
ウソだろっっ!!!!!!!! 無理だろっっ!!!!!!!!!! そんなのイヤっっ!!!!!! 平成生まれはやめてっ!!!!! 聞きたくない!!! 見たくないそんなバックパッカー!!!!!!!
でましたか。
遂にでましたか平成生まれのバックパッカーが。平成生まれなんですかあなたは。昭和天皇の時代を知らないのですか。「鉄骨飲料~」とかいうCMを知らないのですか。ああそれに比べてオレはいったい昭和何年生まれなんだ。というか「昭和生まれ」という言葉が今オレたちが感じている「大正生まれ」、下手したら「明治生まれ」に抱くような古風なイメージに既に変わって行きつつあるのだろうか。そんなのイヤだっ(涙)!!! 昭和生まれは普通じゃん!!!! 若者じゃん!!! そんなのイヤだっ(涙)!!!
……ほらみろ、オレはこうやって「イヤだっ(涙)!!」なんて言ってるんだぞ。こんな幼い表現を使うってことは、まだまだオレは全然若いってことだろうよ!!!! 昭和生まれをナメんなよっっ!!!!!
とにかくオレは引き続き聞いた。
「ということは、もしかしてモーニング娘。なんかキミより年上だったりするの??」
「そうですね。辻ちゃんと加護ちゃんが、僕より1こ上ですね」
へーそーなんだ。
待たんかいワレッ!!!!!!!!
辻ちゃんと加護ちゃんより年下のバックパッカーがいてたまるか!!!!! あり得ないってそんなもん!!!!! 辻ちゃん加護ちゃんより年下ってほとんど赤ちゃんじゃねえかっっ!!!!!!!!!!!!! そんな歳のバックパッカーがいるかよっっっっっ!!!!!!!
いったい、いつの間に時というのはそんなに過ぎてしまっていたのだ……。
逆に今度はオレが自分の時代に流行っていた歌手の名前などを彼に挙げ教えてあげたのだが、ZARDやWANDSなどの名を出した時にこの若造は「ZARDって、死んじゃった人ですよね?」とのたまいやがったのだ。
死んじゃった人とかいう言い方はやめんかっっっ!!!!!! ZARDなんてまだまだぜんぜん新進気鋭のJ-POPアーティストではないか!!!!! ZARDとかB’zの曲を聴いてるってめちゃめちゃ若いっていうことなんだぞ!!!!!!! おじさんたちはついて来れないんだからこんな新しい話題に!!!!
ZARDは不幸にも若くしてこの世を去ってしまったけど、オレたちよりほんのちょっと年上なだけの若いおねえさんではないか。なんだよその「よく知らないけどもう亡くなってしまった昔の歌手ですよね」みたいな言い方は。美空ひばりとZARDが同じ世代だと思ってんじゃねえかひょっとして。全然そのへんの区別がついてないだろおまえ。今の教育はどうなってるんだ。そのくらいちゃんと学校で教えんかっっ!!!!
こうなってくると、もうバックパッカーの世代は変わったのだ。オレはもう引退して、若い者に後の道をゆだねなければいけないな、という気分になる。いや、そうしなければいけないんだ。いつまでも年寄りがのさばっていては、若い人たちがのびのびと動けないのだから。
これでもう旅は最後にするべきだな。少なくともバックパッカーとしての旅はもう引退しなければ。アジア、アフリカ、北米、南米とだいたいの地域は周り、行った国も38カ国になった。今後は残されたヨーロッパに行くにしても大人としてツアーに参加したり高いホテルを渡り歩くような穏やかな旅をすればいいではないか。もうバックパッカーとか冗談じゃないぞ。こんな苦しいこと誰がやるかってんだよテメエ!!!!! 二度と!!!辛いんだよ!!! ものすごく!!!!!
尚、イースター島は見所が広く点在しているため普通は何人かでレンタカーをシェアして観光するものである。ただもちろん基本的にはみんな個人旅行のため、だからこういう日本人宿に宿泊してそこで同行者を探し、グループを組むのである。
しかし、そこはオレのこと。
当然のごとく、1人たりとも同行者を見つけることは出来なかった。
だから、自転車を借りて汗だくになりながら必死で周ったんだ。ひとりで。いつものように(号泣)。
宿の情報ノートにさみしく自転車での観光情報、アドバイスを書いたので今後イースター島に行こうというプランがある方はぜひHare Kaponeでノートを読んでみてください。そしてそれを書いた僕が、その観光をしていた僕がどんなに孤独で寂しかったかに思いをはせてください。そして泣いてください。
「みんなが一緒に観光する人を探している」という状況にいてすらなぜオレだけがいつもグループを組めないのだろうか。オレの次の日にチェックインした旅行者も、その後に入って来た旅行者たちもみんな偶然にもうまく他の宿泊者と一緒に島を回ることが出来ていたのに。レンタカーで、あるいはバイクで自分の汗を流すことなく楽しくおしゃべりをして団結を深めながら。オレなんか時間がかかるから朝5時の真っ暗闇の中をペンライトのみじめな光だけで照らしながら必死で上り坂を自転車漕いでいたんだぞ。そしたら早く目的地に着き過ぎていまだに真っ暗闇でモアイの姿も全然見えなかったんだぞ。しかも暗闇に巨大な輪郭だけ浮かんでめっちゃ恐かったし。
寂しい。寂しく帰国しました。