菌餓辛念
旅先で苦しむことなど、もはやパターン化されている。ただの風邪や腹痛はもちろん、過去には食中毒に肺炎に盲腸にもなって、今さら何か体調を崩してもそれはまず以前も経験したものの中のどれかであり、取り立てて目新しいものでも無いはずだ。
そう、だから今回の旅は、どうせ苦しんだとしてもその苦しみに関しては過去に旅行記で書いているものであり新しく文章にする価値は無いのだから、苦しむだけ損である。それならば、最初から苦しまない楽な旅をすればいい。
と、そう思っていた。
しかし……
いったいどうして、このように旅に出ると必ず新しい苦しみに襲われることになるのか。
日本食が食べたいと、たびたびブログで愚痴をこぼした。だが、どんなものが食べられるか、おいしいものが食べたいとかそういう次元ではない、ただなんでもいいから楽になりたい、神様、どうかここから僕を救い出してくださいと願うような地獄の苦しみ、クリスマスだ年末だと平穏に平和に健康に幸せな気分でみんながいるまさにその瞬間に、地球の裏側でそんな地獄の苦しみを味わっていた人間がいるということを知りなさい。汝、知りなさい。汝が知るべきその苦しんだ人物、それはあなたと同じ日本人。そう、あなたの知っている人物。そう、オレ。
あなたは、見知らぬ他人とシェアをしている部屋の床にゲロをぶちまけたことがありますか? 床にトイレに、吐き出した自分のゲロを掃除しながら更に繰り返し吐き、服は汚れ意識は薄れ、でもそんな自分を助けられる者は自分以外にどこにもおらず、苦しみとゲロにまみれた状態でしかしその状況からの脱出も全て自分の力で為さねばならないという…………瀕死の自分のゲロを掃除してくれる人間も、瀕死の自分をおぶって連れ出してくれる人間もここにはいない。
それがオレのクリスマス。
そして今、国境近くの町の安宿で、間もなく1人新年を迎えようとしている。
この旅が終わってまた新たな旅に出ることがあったら、そしてこの調子で毎回新たな地獄の苦しみが旅ごとに登場するとしたら、体がいくつあっても足りません。もう許して。許せよ。こらっ。
ちなみに、幸いなことに今回の件は病気になったわけでも怪我をしたわけでもないので、そこから抜け出すことが出来た今、体は復調している。ああよかった。詳しいことは簡潔に述べるには事態が全く簡潔ではなかったので、それは旅行記としてまたネチネチと書ける日が来ればと思う。ていうか、外がうるせえんだよマジでっっ!!!! 人の迷惑も考えず音楽かけてバカ騒ぎしやがって!!!!!! 大晦日の夜くらい静かに出来んのかテメエらっっ!!!!!! 花火を打ち上げるなっっ!!!!!!!!! もうラテン音楽とか聞くだけで吐き気がするんだよっっっ!!!!!!!!!!
ああほんとにうるさい。もう寝かせてくれ。1年の締めくくりだというのに騒ぎやがって……。くそっ。うるさいっっ