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初対面

 昨日の夕方だいたい6時前にオレはホストクラブに出勤するため京王線で新宿に向かったのだが、新宿駅で入れ替わりに電車に乗ろうと並んでいた女性が、「インドなんて二度と行くかボケ!」を読んでいた。

 人生で初めて、自分の本を読んでいる人を見つけた。この喜びは、実に何物にも例えられないものであった。何物にも例えられないのは、別にもう死んでもいいほど超絶級に嬉しかったからというわけではなく、文章力や発想力が乏しいため、自分の能力的に何物にも例えられないというだけである。死んでもいいということはないし病気にもなりたくないが、まあそういうこととは別に単純に嬉しかった。だいたい、死んでもいいくらい嬉しいと言って、本当に死んでしまったらもう嬉しくなくなるではないか。文章力については、無職の期間を利用してこれから職業訓練所などに通って身に着けたいと思う。身に着かなかったら、もう諦めて文章を書くのはやめようと思う。

 その女性はオレが降りた後で電車に乗り込んだのだが、オレはしばらくその車両の前をウロチョロしていた。なにしろ、自分の本を読んでいる人を見つけるなんて、もしかしたらこれが最初で最後になるかもしれないのである。明日青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場が大爆発して、地球が滅びるかもしれないではないか。だいたいからにして、オレの本を電車で読んでいる人を発見することが、UFOを見かけるのと同じくらいの確率の奇跡だ。

 ところが、出勤時間も迫っていることだし、いつまでも本を読んでいる人の前で見知らぬ気持ち悪い外見の男が右往左往しているわけにもいかない。こうしているうちにも店では、歌舞伎町ナンバーワンホストのオレを、あまたの寂しくて金持ちな女性たちが待っているのだ。仕方がないのでオレは夜の歌舞伎町、戦場へと、今日もまた……

 ホストとかしょーもない話は書くだけ時間の無駄なのでもうやめるが(自分をかっこよく見せたいのか気持ち悪く見せたいのか文章に統一性も感じられないし)、しかし後から思い返してみると、そんなものは素通りして当たり前にもかかわらず、自分としてはなんとなく「ああ、どうしよう」と思ってしまうのであった。なにがどうしようかなのかわからないが、しかし、ほら、もしかして声をかけたら「えっ!! 作者の方なんですか!!! 私、この本大好きなんです! もしよかったら、結婚してくれませんか? 私、会社を3つほど持っているんでお金の心配もいりません! すぐに両親に会ってください!」なんて言われたかもしれないじゃないか。

 ただ、その可能性は十分考えられる(50%くらい)が、全く逆の場合もあると思う。そもそも声をかけるといったってどうやって声をかければいいのか?? 「あの、すみません。僕、その本の作者なんですけど」といきなり主張しても、「すみません、結構です」と恐怖におののきながら断られるかもしれない。別に何をしようとしているわけでもないのに。

 だいたい、「証拠を見せろ!」と言われた場合に何も証明する物が無い。本人だと証明する物を何も持っていない状況で本を読んでいる人に声をかけて会話が弾むのだとすれば、そう考えると、なにかしら本を読んでいる若い女性がいたら、どんな本だとしても「こんにちは。実は僕その本の著者なんですよ」と声をかける新しいナンパが成立しそうな気がする。

 たしかに、普通のナンパの成功率はものすごく低いと思うが、相手が今読んでいる本の著者だと思い込んでしまったら、何かしら会話をしようと思うのではないだろうか。例えば有名作家の名前の名刺を自分で何種類も作ってカバンに忍ばせておき、好みのタイプの女性が本を読んでいたらすかさずその著者の名刺を持って、「僕、それを書いてる鳥山明なんです」などと差し出せば、まず信用されるのではないだろうか。うーん、なんだかこれはすごいことを考えついてしまったような気がする。軟派なヤロウどもに使われないか心配である。

 まあひたすらナンパを繰り返す場合は、「いや、別にこの本面白くないんで」と言われても次の相手を探せばいいのだが、本当に自分の本を読んでいる人に話しかけて、例えば昨日の人に「あ、あのあの、僕、作者なんです……」とおどおどと泣きそうになりながら訴え出てみたら「あーん? テメーかこのくだらねー本書いたのはっ!!! マジで金と時間損したんだよ!! 1200円返せよオラっ!!!」などと言われたらそのまま隣のホームに身投げをするだろう。

 そういうわけで、若い女性の方々はこれからもし何らかの本を読書中に「僕がその本を書いています。ちょっとお茶でもしない?」と男が近づいてきたら、それはナンパですので思いっきり無視しましょう。

↓ニンテンドー64を買ってもらい、本当に死んでもいいくらい嬉しそうな子供

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