病気になってしまいました
あることが原因で、全身を激しい痛みに襲われている。それにしても、もう3日目だ。いったいオレはどうしてしまったのだろうか。なんでこんなに痛い目にあわなければいけないんだ。冗談じゃない。あり得ない。おおよよ~保険、保険を下ろして!! 保険金で病院に行かせて!!
特に、腹の筋肉と脇近くが激痛だ。脇の近くの肉だ。ち脇肉おどるような感じだ。この脇の下あたりの肉をコリッとやる時のえもいわれぬ、「あわわわ~~~」と思わず老人の悲鳴のような声が漏れてしまう、やや気持ちよさを含む痛み。まだ病院には行っていないのだが、病名についてはおそらくこれだろうという予想はついている。きっとこれは、1850年代にロンドンをはじめとしたヨーロッパの各都市を襲い、黒死病と恐れられた筋肉痛という病気である。そうに違いない。だって筋肉が痛いのだから。
そもそも、職場の変人仲間である中性的な友人にビリーズブートキャンプというエロDVDを借りてしまったことが間違いの始まりであった。最初に彼に話を聞いた時、裸同然の姿をした黒人さんと白人さんが入り乱れ、体勢をいろいろ変えながら、時には喘ぎ声をあげて汗だくになって関係するDVDだという説明を受けたため、これはもう見なければ向こう5年間は後悔すると、ビリーを見ずして変態を名乗れるか、真の変態はおまえではなくオレの方だ!! 職場随一の変態のポジションはおまえには譲らん!! ということで、ありがたく借りることにしたのだ。
しかし家に帰ってプレステ2にDVDをハメこみ、コントローラーを寂しく操作して再生してみると、なんだか筋肉モリモリの黒人さんが「オレについて来い!」とか「キミならできる!」なんて馴れ馴れしく声をかけてくるではないか。そんな見ず知らずの黒人にいきなり命令されても困るし、いくら年上だからって初対面の時は敬語を使うのが礼儀だと思うのだが、しかし映画「プレデター」でシュワちゃんと同じチームにいた軍人さんにそっくりな彼は、自分に負けるな!とか、オレたちがついてるぞ!! なんて励ましてくるものだから、ついつい乗せられて50分間一緒に運動してしまったら、まんまとこの全身を襲う筋肉痛である。
はっきり言って、これは告訴ものである。DVDを買った視聴者をこのように重篤な体調不良にしてしまうのだから、販売会社にはぜひとも損害賠償請求を行いたいと思っている。以前ポケモンのアニメを見た子供が意識を失うという事件があり、それ以来「テレビをみるときは、へやのなかをあかるくしてみてね!」なんてテロップが流れるようになっているが、同じように、このDVDにも最初に「DVDをみるときは、けっしてうごかずにじっとしながらみてね!」と注意を入れるべきであったのだ。それが無いがために、思わず黒人の彼の魅惑的な口車に乗せられて運動をしてしまい、このような体の不調に襲われることになったのである。
まあそれはそうと、それにしても、いくら自分の部屋で誰も見てないからといって、これは恥ずかしい。誰もというか、エルモズが見ていたので運動している間は布団をかぶせておいたほどだ。エルモにすら見られたくない姿だ。テレビに向かいながら1人で「サークル!サークル!」とかいって四股立ちの体勢で腕をぐるぐる回したりしているのだ。姿は見えずとも、大音量でやっていたので隣の部屋の人は「あ、隣の奴ビリーズブートキャンプ買いやがったな」なんてバカにした笑いを浮かべているに違いないのだ。きっと大学に行けばサークルの仲間にも「オレの隣の部屋の奴さあ、ビリーズブートキャンプやってるんだぜ」なんてチクるに決まっているのだ。チクるならチクれよっ!! 将来たるんだ腹筋をびらびら垂らしているおまえの横を、引き締まった体でモデル並みの美しい彼女を連れて歩くのはオレなんだからなっ!!! 最後に笑う者が最もよく笑うんだ!!!
まあしかしなんとか筋骨隆々のおじさんに励まされているうちに恥ずかしさは無くなり、いつの間にかメンバーの人たちと一緒に1セットが終わるごとにオレも「ワオーーッ!」とか「フーーーーッ!!」とか声を上げ、喜びを分かち合うようになってしまった。最後には、全力で「ビクトリー!!」とも叫んだよ。
しかし、そもそもオレは常日頃からちゃんと腕立て腹筋背筋スクワットと結構な数を定期的にこなしているのである。特に腹筋は1日おきに100回以上行っている。それにもかかわらず、たった1回ビリーの運動に付き合っただけで激しい腹痛(いつもの下痢になるのじゃないやつ)に襲われるのである。いったいオレは今までなにをやって来たんだ。
よーし。こうなったら、とことんやってやる!! オレはやるぞっ!! 新しい自分になってみせる!! オレのことを笑ったあいつらを、きっと見返してやるんだ!!